その他

動物用抗がん剤について

犬や猫の治療に使用する抗癌剤について

犬・猫専用抗癌剤

動物専用の抗がん剤は発売されていません。そのため人間用の抗癌剤が動物の治療に用いられます。

犬や猫に抗癌剤を使う時、「犬や猫は抗癌剤の副作用がでにくい」とか「副作用はない」などと説明する獣医師がいるようですが「副作用が無い抗癌剤」などありません。

犬や猫は我々人間とは異なり言葉を発しません。ですから、「ちょっと気持ち悪い」とか「吐きたい」とか「頭が痛い」「手足がしびれる」など症状を訴えません。
しかし、抗癌剤投与を受けた犬や猫の食欲が落ちていたり、横になっている時間が増えたりしていませんか?

また血液検査をすれば肝臓や腎臓、その他白血球や血小板などの数値に異常が現われているかもしれません。

これらは抗癌剤の副作用と考えてほぼ間違いありません。

抗がん剤を使うとき、その副作用を切り離して考えることはできません。

犬・猫が癌と診断されたら直ぐに抗癌剤治療を受けるのではなく、どのようなメリット・デメリットがあるのか、どの程度の効果が期待できるのか逆に副作用としてはどのようなリスクがあるのか、よくご確認ください。

そして実際に治療を受けた方がご愛犬・ご愛猫にとって利益となるのか慎重かつ冷静に判断して頂く事をお勧めいたします。

抗がん剤の特性を図解。なぜ副作用が多いのかがわかります。

 

抗がん剤の特徴(一般的なもの)

抗がん剤は非常に特殊な薬剤です。抗がん剤以外の医薬品とはあきらかに特徴が異なります。

抗がん剤の特徴

  • がんが確定してから使う。がんの疑いでは使わない。
  • けして予防で使わない。
  • 健康な動物が使えば、発癌する危険がある。
  • がん細胞を攻撃するように設計されているが、正常細胞も巻き添いを食らってしまう。
  • がんを叩くメカニズムは、がん細胞の増殖を抑制したり、細胞分裂を失敗させることによる。
  • 副作用は高頻度で起こり、軽度のものから命に関わるものまである。
  • 骨髄抑制の副作用が起こりやすく、白血球や血小板が低下しやすい。
  • 免疫力が低下するため、感染症にかかりやすい。
  • 吐気、下痢などの胃腸障害が起こりやすい。
  • 肝機能が低下しやすい。
  • 一部のがんを除き、抗がん剤だけで完治することはない。
  • 使い始めは効果が出やすいが、連用により耐性が発現し効果が出にくくなる。
  • 即時に起こる副作用と、連用により現れてくる副作用がある。
  • 投与量はがんを消し去る量ではなく、体が耐えられる量を基準に設定される。
  • 効果を高めるためにメカニズムの違う抗がん剤を組み合わせて使われることが多い。

 

また、近年、抗がん剤より副作用が軽いといわれる「分子標的薬」も使用頻度が高くなっています。
分子標的薬については、別ページにまとめましたので、そちらをご覧ください。
分子標的薬について

代表的な抗がん剤一覧表

動物の化学療法で使われることのある代表的な抗がん剤をまとめてみました。これらはすべて人間用です。動物用の抗がん剤は発売されていないため、犬や猫の治療で用いる抗癌剤は全て人間用を利用します。

※人間用の抗癌剤と成分は同じだが商品名が異なることはあります。

ブリプラチン/ランダ-シスプラチン

白金原子を含みプラチナ系と呼ばれる抗がん剤です。細胞のDNAに結合して架橋を作ります。細胞の増殖が強力に抑制されます。非常にコンパクトな分子サイズなので、がん組織に到達しやすいと考えられています。強力な抗がん作用を持つ反面、厳しい副作用が発現します。吐気、腎臓障害の副作用はしっかり管理する必要があります。

尿量が減ったり、浮腫みが出ていないか、痒がらないか、目や口の周りが腫れていないか、呼吸が早くなっていないか、嘔吐していないか、食欲が低下していないか、ふらつきがないかなどをチェックしてあげてください。

のメラノーマで使われることがあります。

パラプラチン-カルボプラチン

シスプラチンと同じプラチナ系製剤です。カルボプラチンはシスプラチンの改良版でシスプラチンに比べると腎臓毒性がかなり軽減しましたが、それと引き換えに抗癌作用は低下しています。

嘔吐や食欲不振はないか、脱毛は無いか、だるそうにしていないか、下痢はないか、血尿はないか、苦しそうにしていないか、体重が減少していないかなどをチェックしてあげてください。

のメラノーマで使われることがあります。

タキソール-パクリタキセル

細胞内の微小管とよばれる構造物に結合します。微小管は細胞分裂に関わっており、そこにタキソールが結合すると細胞は分裂・増殖することができなくなります。投与時に危険な過敏反応が出ることがあるので、ステロイドや抗ヒスタミン剤を先に投与します。人間の場合ではほぼ100%脱毛してしまいます。

嘔吐や食欲不振、脱毛はないか、好きな食べ物が変わっていないか(味覚障害)、だるそうにしていないか(倦怠感)、下痢や便秘は無いか、苦しそうにしていないかなどをチェックしてあげてください。

エンドキサン-シクロフォスファミド

歴史のある古い薬ですが、悪性リンパ腫では現在も使われています。DNAに結合して、細胞の分裂・増殖を抑制します。骨髄抑制による感染症に気をつけます。出血性膀胱炎が起こることがあります。

嘔吐や食欲不振は無いか、脱毛はないか、だるそうにしていないか、尿に血が混じっていないか、頻尿になっていないかなどをチェックしてあげてください。

アドリアシン-ドキソルビシン

強い抗癌作用を持っています。悪性リンパ腫に使われます。DNAの複製に必要な酵素の働きを阻害します。副作用で心臓が障害されることがあります。

嘔吐や食欲不振は無いか、脱毛は無いか、だるそうにしていないか、尿に血が混じっていないか、頻尿になっていないかなどをチェックしてあげてください。

(猫の場合)腎毒性
※ドキソルビシンは、コリーやシェットランド・シープドック(シェルティー)、猫で重篤な毒性が発現するため、使用には注意が必要です。

オンコビン-ビンクリスチン

微小管と呼ばれる細胞内の器官の働きを阻害します。その作用により細胞の分裂・増殖を抑えます。悪性リンパ腫、白血病に使われます。神経障害が出やすく、指がしびれたり、うまく歩行できなくなることがあります。

脱毛は無いか、だるそうにしていないか、排尿困難はないか、歩行に問題はないかなどをチェックしてあげてください。

腎障害を持つ猫の場合、ドキソルビシンの代わりにミトキサントロンが使われます。

 

L-アスパラギナーゼ

製品名:ロイナーゼ
皮下投与するお薬です。(筋肉内投与を推奨する専門家もいらっしゃるそうです)
腫瘍細胞が増殖するときに必要なアスパラギン(アミノ酸の一種)を分解し、栄養不足を引き起こして死滅させる作用を利用した抗がん剤です。
比較的副作用が少ないお薬ですが、繰り返し投与を行うことでアナフィラキシーを引き起こすことがあるため、注意が必要です。
(予防として、投与15-30分前に抗ヒスタミン剤を前処置として投与することがあります)
単独使用でも功を奏する場合がありますが、腫瘍細胞がL-アスパラギナーゼに耐性を持つスピードはとても早いとされているため、その後の治療が重要となります。

副作用:アナフィラキシー症状

 

CCNU

製品名:ロムスチン
経口投与するお薬です。
DNA合成阻害作用から腫瘍細胞の増殖を抑制する抗がん剤で、リンパ腫、肥満細胞腫、組織球疾患のほか、血液脳関門を通過するため脳腫瘍で使用されます。

副作用:消化器毒性、骨髄毒性、治療継続により肝不全を引き起こすこともある

 

メトトレキサート

製品名:メソトレキセート
経口投与、若しくは静脈投与するお薬です。
細胞内でDNAとRNAの合成を助ける酵素の働きを妨げて、がん細胞の増殖を抑える葉酸代謝拮抗剤です。

副作用:骨髄毒性、腸上皮の損傷

 

アクチノマイシン

製品名:コスメゲン、ダクチノマイシン
静脈投与するお薬です。
DNAに結合してRNAの合成を抑制し、がん細胞の増殖を阻止する作用があり、腫瘍細胞内に留まりやすい性質があります。
血管周囲に漏れ出た場合、重度の皮膚壊死を起こします。

副作用:消化器毒性、骨髄毒性

 

クロラムブシル ※日本未承認

製品名:クロケラン、ロイケラン、リューケラン
経口投与するお薬です。
DNA合成阻害作用から腫瘍細胞の増殖を抑制する抗がん剤で、シクロホスファミドで無菌性出血性膀胱炎を発症してしまった場合やその危険性が高い場合に、この薬剤を使用することがあります。

副作用:消化器毒性、骨髄毒性、神経症状

 

メルファラン

製品名:アルケラン
経口投与するお薬です。
DNA合成阻害作用から腫瘍細胞の増殖を抑制する抗がん剤で、形質細胞腫でプレドニゾロンともに使用される(MP療法)ことがあります。

副作用:消化器毒性、骨髄毒性、肝毒性

 

シタラビン

製品名:キロサイド
皮下投与、若しくは静脈投与、くも膜下腔投与するお薬です。
アメリカで最もよく使用されている抗がん剤の1つで、細胞内でシタラビン三リン酸塩というピリミジン類似体に変換されることで、腫瘍細胞のDNA合成を抑制し、増殖を抑える作用があります。
血液脳関門を通過数rため、脳腫瘍に使用されることもあります。

副作用:消化器毒性、骨髄毒性、肝毒性、シタラビン症候群(発熱、筋肉痛、骨痛、結膜炎、斑状丘疹性皮疹など)

 

プレドニン-プレドニゾロン

プレドニン(プレドニゾロン)は抗癌剤ではなく合成副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)です。

本来はアレルギーや炎症を抑える薬として使われます。抗がん剤ではありませんが、悪性リンパ腫の治療に用いられます。免疫抑制作用があるので、感染症にかかりやすくなります。

また副作用として食欲増進作用があるため、食欲がない子にステロイドを投与することで食欲を出させようとする使い方もあります。

シクロスポリン、アドリアシン、オンコピン、プレドニンを組み合わせて使う療法はCHOP療法と呼ばれ、悪性リンパ腫の代表的なレジメン(抗がん剤の組み合わせ)です。悪性リンパ腫は抗がん剤が比較的反応するがん種です。

しかし、残念ながら抗癌剤には薬剤耐性の問題があるため悪性リンパ腫が抗癌剤だけで治癒に至るケースはあまり多くありません。