猫の病気
猫伝染性腹膜炎(FIP)と治療方法について
猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルスの一種で、FECV(非病原性腸コロナウイルス)が体内で突然変異を起こして強毒性のウイルス(FIPV)になったという説、弱毒性~強毒性のコロナウイルスが幅広く存在するという説があり、致死率はほぼ100%といわれる病気です。
血管に炎症がおきることによってさまざまな症状を引き起こすため、人のコロナウイルスと動態が似ているともいわれています。
FECVの保有率は野外で40%、多頭飼育環境だと約90%といわれていますので、ブリーダーさんやペットショップからお迎えした子のほとんどは、FECVを持っていると思っておいてもよいかもしれません。
FECVを保有していても、健康なまま一生を終える子は沢山います。
しかし、何らかのきっかけでFIPVに変異してしまうと、ウイルスは全身臓器で増殖し、FIPを発症してしまいます。
【発症年齢、発症しやすい猫種】
FIPは3歳未満(特に4~16ヵ月齢)、シニアさんで発症しやすいといわれています。
FIP発症の70%以上は1歳未満という報告もあります。
これは、まだ若いうちには免疫システムが未熟であるということ、またシニアさんになると免疫システムが働きにくくなっていることに由来していると考えられます。
また、雑種猫さんよりも純血種の猫さん(特にアジア系品種:ヒマラヤン・バーマンなど)のほうが発症しやすいという報告もあります。
【感染経路】
FIPウイルス自体は外界ではとても弱くすぐに失活するといわれていますので、FIPウイルス自体が他の猫さんに感染する(水平感染)は、現在のところ証明されていません。
FECVの感染は糞便を介するため、トイレを共有していたり、排泄物が付着した被毛のグルーミングや、排泄物が混じった唾液を舐めることによって感染します。
FECVからの突然変異の要因として
・年齢(免疫システムが働いていない幼齢or免疫システムが働きにくくなっているシニア)
・多頭飼育
・ストレス
・猫エイズ(FIV)、猫白血病(FeLV)などの免疫異常を引き起こす病気
・免疫抑制剤による治療中
が関与しているといわれています。
【FIPの症状とタイプ】
初期症状としては、
・食欲低下
・体重減少
・発熱
・嘔吐、下痢などの消化器症状
などがあげられますが、これらはFIP特有の症状ではなく、どんな病気でも起こりうる症状のため、この段階でFIPだと気付くのは難しいケースがほとんどです。
上記の初期症状と合わせて他にみられる症状で、以下の3つのタイプに分類されます。
①ウェットタイプ(滲出型)
FIPの多くはウェットタイプを呈します。
脱水や貧血、腹水による腹部膨満、胸水による呼吸困難、黄疸があげられます。
抜去した腹水や胸水は、黄色でとろみの付いたものになります。
診断後2週間~1か月程度で亡くなることが多く、平均余命は7~10日とも言われています。
②ドライタイプ(非滲出型)
様々な臓器に肉芽腫を作るのが特徴で、腎臓や肝臓、脳、眼などがあります。
出来る部位によって症状が変わり、腎障害や肝障害、脳に腫瘍が出来た場合には神経症状(てんかん、性格の変化、異常な行動、歩行困難、排泄の麻痺、顔面神経の麻痺など)などが見られます。
③混合タイプ
ウェットタイプとドライタイプが合わさったタイプで、ウェットタイプ単独よりも進行が緩やかです。
【FIPの診断方法】
FIPの診断は、PCR検査にて血液や胸水、腹水からFIPVを検出することで、ほぼ確定診断としています。
ウェットタイプでは診断が比較的容易で、胸水や腹水の検査や、血液検査でアルブミン:グロブリン比(A:G比)が0.8未満、総蛋白の高値等から確定できます。
ドライタイプでは100%FIPと断言可能な検査方法は未だに無く、年齢や発症までの経過、症状、血液検査、画像診断、抗体価、血清蛋白分画などを組み合わせて診断していくことも多いです。
【FIPの一般治療】
現状、FIPに対して有効な治療法は未だ確立されておらず、症状を和らげるための対症療法のみとなります。
対症療法の種類としては
・ステロイド
・インターフェロン
・免疫抑制剤
・抗生剤
・点滴
などが挙げられます。
【FIPのその他の治療法】
ここ数年で、FIPの治療法は大きく変わりつつあります。
しかし、国内未承認薬になるため、治療費も高額であること、またまだ安全性が確立されていないものなど多種多様なため、取り入れるかどうかは飼い主様のご判断となります。
代替療法と一般治療、サプリメントと一般治療で寛解された子もいらっしゃいますが、国内未承認薬の寛解率には及びません。
以下、一般治療以外の治療法をご紹介いたします。
①GS-441524
人間に感染するRNAウイルスに対して増殖抑制効果を有している「GS-5734」の前駆物質で、FIPVに対しても高い抗ウイルス効果がある可能性が示唆されています。
2019年にカリフォルニア大学デーヴィス校のPedersen博士らのグループが発表した論文では、拡散合成を阻害する新規物質=GS-441524の治療で、80%以上の長期生存を達成したと発表しています。
従来は注射薬のみだったそうですが、昨年よりイギリスで経口投与ができるGS-441524製剤が購入可能となったことから、国内でも動物用医薬品として輸入できるようになっているようです。
②MUTIAN(現在:Xraphconn)
GS-441524類似薬として中国のMUTIAN社で開発されたお薬です。
MUTIANはカプセルでしたが、現在出ているXraphconn(ラプコン)は錠剤となっています。
国内でのFIP未承認薬としてはGSよりも使用されている方が多い印象ですが、GSよりもコストは高く、FIPのタイプや重症度、体重によっても金額変動がありますが、治療総額が100~200万円以上かかります。
③CHUANFUNING(CFN)
MUTIAN社の元社員が独立した会社で製造している薬剤であり、製造方法、内容成分は、以前流通していた「MUTIAN」と同一のものといわれています。
CFNによる治療も症例数が増えており、MUTIANと同等の治療結果が確認されているようです。
CFNとXraphconnの公表されているデータを比較すると、改善率はCFNのほうがやや高いそうです。
上記①~③は現在比較的多く取り入れられている国内未承認薬になります。
スタンダードな方法として、84日間の治療の後、3か月の経過観察期間を経た後、再度検査をして寛解したかどうかを確認します。
④レムデシビル
ヒトの新型コロナウイルスの治療薬ですが、オーストラリアと英国では語法的な薬として、FIP治療に使用され始めており、400例以上のケースで有効率85~90%という報告も上がっているそうです。
国際猫医学会(ISFM)からは、GS-441524とレムデシビルと合わせたFIP治療のプロトコールが紹介されており、オーストラリアでは2020年10月〜2021年11月で500頭ほどの治療実績があるようです。
⑤モラヌルピラビル
ヒトの新型コロナウイルスで国内仕様が開始された薬で、こちらもFIPに有効だという報告が上がっています。
GS-441524と比較して1/10程度の価格ではありますが、まだ猫に対する使用の安全性が確認されておらず、抗FIPウイルス活性についてもGSより劣ります。
また、モラヌルピラビルは催奇形性や発がん性なども懸念されておりますので、現状は第一選択とはなりにくいお薬であると考えられます。
今後、GS製剤に耐性を生じてしまった子への治療として使用されるようになるかもしれません。
⑥5-アミノレブリン酸(5-ALA)
2021年に北里大学とネオファーマジャパンとの共同研究で、5-アミノレブリン酸(5-ALA)によるネココロナウイルスの増殖抑制効果を確認したという報告が出ています。
まだ実験室での結果なので、治療薬としての使用はまだこれからというところになりますが、成分自体の体内への安全性が確立していものなので、今後FIP治療薬として認可されることも十分期待できるのではないかと思います。
⑦ホメオパシーや漢方
一般的な治療と代替療法を用いて、寛解ができた子や症状コントロールができている子がいらっしゃいます。
ホメオパシーの種類や漢方の種類については、処方される先生によっても変わりますので、どの種類なのかについては記載を控えます。
⑧サプリメント
ウイルスに打ち勝つには、免疫がしっかりと働くことが重要です。
そのため、免疫を整えるサプリメントを使用することで、症状のケアが行えることも期待できます。
胸水、腹水の貯留が見られる子の場合には、体内のアミノ酸が不足してしまうためBCAAの補給を、また肝臓のケアを行うことでアルブミン生成も行えますので、肝臓ケアのサプリメント(プラセンタなど)を用いることもお勧めしております。
未承認薬も肝臓で代謝されることを考えますと、肝臓ケアを行っておくことは、未承認薬治療を行う上でも、お体のサポートとなると考えられます。
その他、FIPはウイルスによる血管炎から全身症状を呈しますので、炎症ケアとしてEPA/DHAの摂取もお勧めです。
新たな治療法が出てきているものの、まだまだ一般的ではなく、治療費も高価になりますので、必ずしもすべての子がこの治療法を用いることができるというわけではないのが現状です。
いつの日か、FIPの治療法がすべての子に平等に受けられるものになることを祈ってやみません。