食事

愛犬の本気ダイエットなら糖質制限食がおすすめ

ポッチャリした肥満犬。見た目はかわいいものの、犬にとってみれば好ましいことではありません。犬たちにはぜひ健康で長生きして欲しいので、効果的なダイエット法として「糖質制限食」をご紹介いたします。

もともと人のダイエット食事法として注目され始めた糖質制限ですが、犬のダイエットにも効果的です。きっとカロリー制限ダイエットよりも辛くなく、かつ健康的です。ぜひ一度チャレンジしてみてください。

 

そもそも肥満のどこが悪いのか?

肥満は様々な病気を引き起こします。肥満はあきらかな生活習慣病(メタボリックシンドローム)のリスク要因です。

肥満は犬を不健康にさせ、そして短命にしてしまうために良くないのです。

それに病気になれば治療費用もかかります。糖尿病などの生活習慣病では生涯にわたっての治療が必要になり、治療費が10万円、20万円、場合によっては100万円以上も余計にかかってしまうかもしれません。

そして太る食事は、がんの発生・成長にも大いに関係しています。犬のがんは最近非常に多いですから、ぜひとも食事について考えてください。こちらのページもご参照ください。

がんの犬猫におすすめする取り組み-低糖質、高タンパク質の食事

 

なぜ太る?

犬も人間も太る理由は一緒です。食べ過ぎです。

ですが、ただ単に食事の量の問題ではありません。同じカロリーの食事でも、太りやすい食事と太りにくい食事があります。

ずばり、太りやすい食事とは、糖質割合の高い食事である。

「いろいろ工夫してるのだけど痩せなくて・・・。」という飼い主様は、食事中の糖質量に着目してみてください。カロリー制限ダイエットで失敗したご愛犬も、糖質制限ならできると思います。

 

糖質とは

糖質とは炭水化物から食物繊維を除いたものです。

糖質を多く含む食材の代表は砂糖です。グラニュー糖はほぼ100%糖質です。

そのままでは甘みのない「でんぷん」も糖質です。

米、小麦などの穀物類、野菜類ならジャガイモやカボチャ、果物ではバナナが糖質多めの食品です。

人の食事なら白米やパン、うどん、ラーメンなどの主食類に糖質が大量に含まれています。犬はそのような食事をしませんが、大量の糖質が含まれているドッグフードが流通しています。

糖質の多いドッグフードの主原料は穀物や芋類などです。そのようなドッグフードは糖質制限ダイエットにはまったく向いていません。

糖質 = 炭水化物 - 食物繊維

 

糖質で太るメカニズム

糖質食が肥満の原因となる理由は、犬の体に次のような仕組みが備わっているからです。シンプルにわかりやすく5段階で説明してみます。

  • 1.食事に含まれる糖質は、腸ですみやかに消化吸収される。
  • 2.すると血液中にどんどん糖質が入ってくるため血糖値が急上昇する。(一時的な高血糖状態)
  • 3.高血糖は生体に危険な状態なので、それを解消するために、すい臓からインスリン(血糖降下ホルモン)が分泌される。
  • 4.放出されたインスリンは血糖値を下げるために、ブドウ糖をひたすら脂肪に変換する。
  • 5.血糖値が下がり体内には平穏が訪れるが、変換された脂肪は体の各所に蓄えられる。すなわち体脂肪となって蓄積する。

これが糖質で犬が太るメカニズムです。だいたいおわかりになりましたでしょうか。

さらに付け加えますと、糖質食がもたらす大きな血糖値の変動は「糖質への依存性」を引き起こします。食べても食べても「もっと糖質が欲しい!」という悪循環に陥りがちです。

 

太りやすいドッグフードを見分ける

ドッグフードは糖質を多く含むほど犬を太らせやすく、ダイエットに向きません。

脂質の量を気にしている飼い主様は多いと思いますが、糖質制限ダイエットで重視するのは糖質の少なさです。

同じカロリーを与えつつ体重を落とそうと考えるなら、糖質の少ないドッグフードを選んでみてください。それだけで痩せやすくなります。ただし糖質が少ないからといって与えるカロリーを増やしてしまえば痩せません。

実際にドッグフードを見分けるときに、裏面もしくは側面の成分表示欄をチェックします。きっとご愛犬のドッグフードにはこんなふうに書いてあると思います。

栄養表示(100gあたり)
(粗)タンパク質 20%以上
(粗)脂肪 15%以上
繊維 10%以下
灰分 10%以下
水分 10%以下
カロリー 350kcal
以下略

お気づきだと思いますが、成分表示に糖質量がありません。困ったことに糖質について表示義務が無いのです。そのためほとんどのドッグフードメーカーは表示していません。

カロリーから引き算しておおよその糖質量を求められそうですが、私が実際にいくつかのドッグフードで計算したところ、かなりのズレが生じてしまいました。

実際には正確な糖質の量を求める必要はありませんので、簡易的に次のように考えていただければ良いです。

「タンパク質の量が多ければ、相対的に糖質は少なめ。」

売り場でダイエット向きのドッグフードを探すときは、下の表を参考にしてみてください。

ダイエット向きドッグフード
タンパク質の割合 おすすめ度
30%以下 ☆☆☆
30%~40% ★☆☆
40%~50% ★★☆
50%以上 ★★★

太りやすい食材のおおまかな一覧

本気で愛犬をダイエットさせたいと考えるとき、なにもドッグフードだけに頼る必要はありません。トッピング、半手作り食、完全手作り食も視野に入れてみましょう。

手持ちのドッグフードが糖質たっぷりだとわかったとしても、すぐに捨てなくて良いです。ドッグフードの量を半分に減らして、食材を半分足してみてください。工夫次第でいきなり糖質量を半分に減らせます。

食材選びには下表がお役立ちすると思います。

食材名 説明
肉    糖質制限食では要の食材になります。糖質がほとんど含まれず、タンパク源が豊富です。脂身の少ない赤身肉がおすすめです。ちなみに肉の重量の2/3くらいは水分です。
魚    肉と同様。そのうえ魚の脂は健康に役立つので、なおオススメです。
野菜 ビタミン、ミネラルの補給源として加えたいところですが、糖質を多く含むものがあるので気をつけます。葉物は概ねOKです。カボチャやジャガイモは多くならないように。野菜たっぷりというドッグフードは一概にヘルシーとはいえないので、何の野菜を使っているのかチェックしてください。玉ねぎ、長ネギは犬に合わないので使えません。
果物  野菜と同様のメリットがありますが、一様に糖質多めです。味のアクセント程度にしましょう。バナナは糖質が多すぎますのでやめましょう。同じ重さなら、水気の多い果物ほど相対的に糖質量は少なめです。
穀物類 糖質が多いので極力減らすべき食材です。穀物だらけのドッグフードでしたら変更しましょう。白米やパンなど与えていると太ります。トウモロコシもです。ビスケットなどのお菓子はもってのほかです。

各栄養素のカロリー

糖質制限ダイエットでは、カロリー制限をするわけではありません。それでも各栄養素のカロリーを知っておくといろいろ便利です。例えば、いまのドッグフードを半分に減らして、肉や魚をプラスしたいというとき、各カロリー量が頭に入っていると計算が楽です。

栄養素名 1gあたりのカロリー
糖質 4kcal
タンパク質 4kcal
脂質 9kcal

同じ1gでは脂質が非常にカロリーが高い栄養素だということがわかります。油断して多めに与えるとカロリーオーバーになり、糖質制限ダイエットの効果を妨げるのでお気をつけ下さい。
食物繊維についてはいちおう0kcalと考えてもらってよいです。

 

食事に一手間かけましょう

こちらのレシピは完全な糖質制限食ではありませんが、ヒントになると思います。ドッグフードを減らすために一手間かけて、食材をプラスしています。犬は野菜の消化が苦手なので、小さく切ったり煮てあげてください。

半手作り食レシピ

 

代表的なダイエット食、おからについて

犬のダイエット食と聞いて、真っ先に「おから」が思いつく人は多いでしょう。

大豆の搾りカスであるおからは食物繊維が豊富な食材として注目されています。糖質はあまり含まず、タンパク質、脂質が意外と入っています。上手に使えばダイエットに役立ちます。

ただし食物繊維を犬に与えすぎるとお腹の調子が悪くなることがあります。まずは少量から与え始めてください。おから中心に考えず、糖質制限ダイエットを補助する食材のひとつだとお考えください。

 

糖質制限は安全?

糖質制限は以下のような理由から安全です。

  • 体脂肪をブドウ糖に変換する仕組みのおかげで糖不足は起きない。
  • 糖質制限を行っても、ある程度の量の糖質は摂取することになる。
  • 犬はそもそも肉食獣である。

どのような食事にもメリットとデメリットがありますが、糖質制限食も同じ程度です。おそらく何万、何十万頭という犬が、意識的にもしくは習慣的に糖質の少ない食事を続けていますが、健康被害について聞いたことはありません。

もしも万が一、糖質制限食で犬の体調が芳しくないということになれば、元の食事に戻せば良いだけです。そのときはカロリー制限と運動によるダイエットに切り替えてください。肥満の放置こそ危険です。

ちなみに私自身も健康のために糖質制限をしています。一般的な男性の糖質摂取量に比べて1/4ほどではないでしょうか。体調はすこぶる良好ですし、痩せて引き締まってきました!ちなみに運動はほとんどしてません。

糖質制限で思考力が低下したり、運動能力が低下することはありません。むしろ向上すると思います。糖質制限によって血糖値の変動が穏やかになり、脳や体は喜ぶのです。

糖質を与えると元気になるという犬は、まるで麻薬のように、糖質依存が起こってしまっている可能性があります。早く脱却させたいところですが、あわてずゆっくりと糖質を減らしたほうがダイエットを成功させるかもしれません。

 

タンパク質が多めになることの安全性

タンパク質をたくさん食べると体内にカスが溜まるという心配は不要です。タンパク質の残骸である窒素化合物はある意味カスと言えるかもしれませんが、それらは尿中に排泄されるので体内に蓄積しません。むしろ体内に脂肪を蓄積させる糖質食のほうがリスクが高いでしょう。

ただし重症の腎臓病、肝臓病の犬の場合は、過剰にタンパク質を与えると症状を悪化させる可能性があります。他の疾患がある場合も念の為に獣医師に聞いてみてください。

通常は犬にタンパク質を多めに与えても問題がありません。数ヶ月間、総エネルギーの半分程度をタンパク質にする程度のダイエットメニューならば、ほとんどの犬が気にすることはないでしょう。

それと小さなリスクにとらわれすぎないほうが良いです。肥満が病気を生み出すリスクと天秤にかけ、いまの愛犬にどのような食事メニューが適しているのか冷静に考えてみましょう。たいていの場合でダイエットが優先という考えに行き着くと思います。

なおタンパク質は非常に重要な栄養素です。以下のような理由から、絶対に不足させてはいけません。

  • タンパク質は体を作るための栄養素である。(犬の血肉になっている。)
  • タンパク質は他の栄養素では簡単に代用できない。
  • タンパク質は体内で分解・再合成されるが、一部は尿から排泄されるので補充が必要。

 

人用の食材を使うことの安全性

ドッグフード以外を与えてはいけないという話を聞きますが、ほぼ迷信だと思ってもらって構いません。今でもこのような噂が流されているのは意図的なものなのか、そうでないのかわかりませんが、手作り派の犬や飼い主様にとっては不安が煽られる悪い噂です。

私はドッグフード作りの企画に携わったことがありますが、何か特殊な犬専用の成分を入れたり、何かの成分を抜いたりすることはありません。

ご存知の通りドッグフードには多種多様な製品があり、使われる食材は実にバラエティーに富んでいます。品質こそ劣りますが、私たちが食べる食材とほぼ共通なのです。

愛犬に手作り食を与えている飼い主様は、日本だけでも100万人程度いるでしょう。そして手作り食を食べる犬たちに病気が多発しているなどとは聞いたことがありません。なによりもこの事実が安全性を裏付けてくれます。

ただしなかには犬に合わない食材もあるのでお気をつけください。ネギ類はダメです。いちおうニンニクも避けておきましょう。

ちなみに人がドッグフードを食べ続けると、おそらく病気になります。それは多くのドッグフードの品質が、人の食事よりもはるかに低質だからです。危ないですから試さないでください。

 

おすそ分けの工夫

家族の食事中に犬が近づいてきて、ついつい白米やパンを与えてしまう。愛くるしい顔で催促されると、何も与えないのは辛い。

しかしおすそ分けが肥満の原因になっていることは少なくありません。ダイエットのために改善しましょう。

心を鬼にして完全にやめてしまうのが一つの方法です。

もう一つは、あらかじめ与える食材を用意しておくことです。糖質をほとんど含まない肉や魚を与えるのでしたら、そうそう太りません。今までずっとおすそ分けの習慣を続けてきたのでしたら、急にやめるのは辛いでしょう。まずはこちらから始めることをお奨めします。

だからといって1日の摂取カロリーが1割も2割も増えることがないようにしてください。さすがにそれでは痩せません。

 

間食が病気を増やしている

若返り遺伝子として知られるようになった「サーチュイン遺伝子」は病気の治癒にも重要な働きをしています。

最近、そのサーチュイン遺伝子を簡単に活性化する方法がわかり注目されています。実に簡単な事です。サーチュイン遺伝子を活発に働かせるのは「空腹」です。

空腹時には治癒力・免疫力が高まり、病気に対する抵抗性が増すのです。がん予防にも大きく関わりがあると考えられます。

ですので、間食はできれば控えるべきです。空腹感をやわらげようと与える間食が、実は犬のためになっていないということです。

我々人間も同じです。健康に役立つと知れば、少しくらいの空腹感は悪い気がしません。ご愛犬と一緒に気をつけてみましょう。

 

糖質制限でもっとも注意すべきこと

糖質制限を行うと、倒れてしまう犬がいます。それは糖尿病の治療中の犬です。

インスリンなどの血糖降下剤は、糖質制限をしていてもさらに血糖値を下げようとするため、低血糖を引き起こします。気をつけてください。

対処法は、薬を減らすことです。

このことは、ぜひともポジティブに考えてください。糖質を制限すれば、薬を使わずに血糖値をコントロールできるということを示しているからです。糖尿病まで糖質制限で治るとなれば、たくさんの犬が助かります。白内障などで失明する犬が減り、腎臓病になる犬が減ります。皮膚炎が改善する犬もいるでしょう。

なお肥満犬は糖尿病を患っていることが少なくありません。それはこのような理由からです。

  • 肥満が糖尿病を誘発する 。
  • 糖尿病治療薬に頼ってしまい食事制限が疎かになる。
  • 糖尿病治療薬の働きで犬は太りやすくなる。

 

最後に

「腹八分目に医者要らず。」

日本にはこんなに素晴らしいことわざがあるのに、いつの間にか軽視されるようになってしまいました。満腹感が本能的な幸福感を与えるのは間違いありませんが、健康によって得られる幸せに優るはずがありません。

腹八分目を現代風にアレンジし、食を楽しみながらも健康を守る食事法。それが「糖質制限」だと思います。ご愛犬のダイエットに、健康維持にぜひともお役立てください。

監修獣医師:林美彩  所属クリニック:chicoどうぶつ診療所

代替療法と西洋医学、両方の動物病院での勤務経験と多数のコルディの臨床経験をもつ。 モノリス在籍時には、一般的な動物医療(西洋医学)だけでは対応が困難な症例に対して多くの相談を受け、免疫の大切さを痛烈に実感する。
ペットたちの健康維持・改善のためには薬に頼った対処療法だけではなく、「普段の生活環境や食事を見直し、自宅でさまざまなケアを取り入れることで免疫力を維持し、病気にならない体づくりを目指していくことが大切である」という考えを提唱し普及活動に従事している。